2007年、近年の急速な観光地化とそれにともなう人口の急増により、環境汚染や生きものへの撹乱、外来生物の移入、密漁など多くの問題が持ち上がってきたことに対して有効な対策が講じられていないと判断され、危機遺産に登録されてしまった。
ガラパゴス諸島の危機遺産登録を受け、エクアドルの政府は速やかにガラパゴス諸島海洋環境保全計画プロジェクトを開始し、化石燃料を排除するために風力発電や太陽光発電を利用し、移住の制限などの対策を行った。
2010年、これらの対策が評価され、ガラパゴス諸島の危機遺産の登録が解除された。
【2021.8.21 里見】
諸島内には、ガラパゴス国立公園局が運営しているゾウガメ飼育繁殖センターが3つと公園局からの委託による民間施設が1つある(「最新の科学的知見」の図1参照)。これらの施設で生まれた子ガメは、野生での生存率が高まる5歳ほどまで育てられ、天敵となる外来種が駆除された島に還されている。
ゾウガメはガラパゴス諸島における「島の生態系保全のエンジニア」とも呼ばれ、植物を食べ糞によって種をばら撒く役目を担っているため、島の健全な生態系を保つために不可欠な存在である。固有のゾウガメ種が絶滅した島には、下記のように他種のゾウガメを導入して島の生態系の保全に取り組んでいる。
飼育下繁殖後に島に戻されたゾウガメの数を下の表1に示す。
① 2010年、ピンタ島へのゾウガメの再導入
ゾウガメが絶滅したピンタ島には、2010年5月に39頭の不妊化処置を施した30~70歳の交雑種のゾウガメが導入された。
② 2015年、サンタ・フェ島へのゾウガメの再導入
150年前にゾウガメが絶滅したサンタ・フェ島には、2015年6月以降、飼育下繁殖で誕生したエスパニョラゾウガメ(Chelonoidis hoodensis)が導入されている。
導入されたゾウガメのモニタリングにより、島での生存状況が良好であることが確認されたため、2021年3月のゾウガメ191頭の再導入を最後にサンタ・フェ島ゾウガメ導入プロジェクトは完了した。この島に導入したゾウガメ総数は732頭である。今後は導入したゾウガメの自然繁殖に期待がかかる。
③ 2020年、エスパニョラゾウガメの飼育下繁殖プログラム完了
2020年1月10日、ガラパゴス国立公園局は、エスパニョラ島の生態学的評価の結果、生息地の状態とゾウガメの個体数が共に順調に回復していることを確認したため、エスパニョラゾウガメの飼育下繁殖プログラムを終了することを発表した。
1963年から1972年の間にエスパニョラ島でゾウガメ捜索が行われ、見つかった個体は雄2、雌12のわずか計14頭であった。飼育下繁殖プログラムは当初、この14頭で行われていたが、遺伝的多様性を広げるために、サンディエゴ動物園で30年飼育されていたオスのエスパニョラゾウガメのディエゴを1977年に繁殖施設に迎えた。
エスパニョラゾウガメはその後、2,000頭まで増え、その4割がディエゴの子孫であると推定され、ガラパゴス保存のシンボルとなっている。繁殖プログラムの終了に伴い、絶大な貢献をしたディエゴも繁殖プログラムから引退し、2020年6月15日に生まれ故郷のエスパニョラ島へ還された。
【2021.8.23 里見】
イサベラ島ウォルフ火山周辺には、以前からウォルフ火山種とは違う鞍型の甲羅の特徴を持つゾウガメがいることが知られていた。これらについて遺伝子解析を行ったところ、2007年にピンタ島種の遺伝子を持つ交雑種が、また、その翌年にはフロレアナ島種の遺伝子を持つ交雑種がいることが判明し、絶滅種の再発見の期待が高まった。
2008年に同地で行った1,600頭を超えるゾウガメの大規模な遺伝子解析の結果でかなりの数の交雑種がいることに自信を深め、2015年の調査では発見したフロレアナ島交雑種32頭を連れ帰り、これらによる繁殖プログラムを開始した。
2020年1月にも同様の調査が行われ、フロレアナ島交雑種20頭がこのプログラムに加えられた。一方、ピンタ島種の交雑種は1頭の発見に終わり、また、期待していた純血種の発見には至らなかった。しかし未調査のゾウガメが現地に数多く存在することから、今後の調査に期待がかかっている。
【2021.8.23 里見】
※「ガラパゴスのふしぎ」記載箇所:[4-4]