世界遺産とは、世界遺産条約にもとづいて登録された、「世界中の顕著で普遍的な価値のある」「有形の不動産」である。簡単にいえば、誰もが認める価値をもち、のちの世代への遺産として守るべきものである。
世界遺産は文化遺産、自然遺産、複合遺産に分けられ、種類別の登録件数は2009年7月現在、文化遺産689、自然遺産176、複合遺産25、合計890件である。また世界遺産条約は、1972年のユネスコ(UNESCO/国際連合教育科学文化機関)総会で採択され、現在の締約国数は186ヶ国である。
世界遺産への登録には、厳しい基準をクリアすることが必要だ。まず各国が国内の候補地を暫定リストにまとめ、ユネスコ世界遺産センターに推薦する。次に専門家が推薦された物件の現地調査を行い、その価値や保護・保存の状態、今後の保全・保存管理計画などについて評価し報告書を作成する。最後に世界遺産委員会が評価報告書にもとづいて審議を行い、登録の可否を決定する。
ガラパゴス諸島(陸域)は、1978年の第2回世界遺産委員会で、最初の世界自然遺産の1つとして登録された。これは、ガラパゴスの生態系の価値だけではなく、1973年に第一次国立公園管理計画が策定され、陸域の97%を保護区域とし、ゾーニング制度が施行されるなど、適切な保護管理体制が確立していたことが評価されたものである。
その後、1986年にガラパゴス海洋保護区が設置され、1992年に第一次海洋保護区管理計画が策定された。1998年には海洋保護区が大幅に拡大され、2001年には海洋保護区を陸域に追加・統合して世界自然遺産となった。
ところが、2007年の世界遺産委員会で、ガラパゴス諸島は危機遺産リスト入りすることとなった。
危機遺産とは、登録された世界遺産のうち、「普遍的価値を損なうような重大な危機にさらされている」遺産をいう。2009年7月時点で危機遺産リストに登録されている世界遺産は、文化遺産16、自然遺産15、合計31件である。世界自然遺産の場合、1割近くが危機遺産リストに登録されていることになる。
危機遺産リストに登録されると、世界遺産基金からの財政的支援を申請することができ、危機的な状況を脱したとみなされる場合には危機遺産リストから削除される。
実は、ガラパゴス諸島の危機遺産リスト入りは、1994~97年の世界遺産委員会でも議論されていた。当時、観光客数の増加とともに人口増加も著しく、確認された外来種数の増加(4 - 2参照)、ナマコ漁などによる海洋資源の乱獲(4 - 7参照)といった問題が起き始めていた。世界遺産登録の要件の1つである「適切な保護管理体制」に疑問が投げかけられたのである。
エクアドル政府はこれに対して1998年にガラパゴス特別法を制定し、ガラパゴス諸島の保全体制の強化を図った。同特別法は、「進化のプロセスの維持」、「大陸と諸島の間、諸島内の島々での遺伝子の隔離」を「人間による最小限の干渉のもと」で行い、「生態系と生物多様性を維持」することを大原則として掲げている。万単位という多数の人口を抱えながら、無人島時代の自然の状態をできる限り保とうという、きわめて難しい課題である。
ガラパゴス諸島の危機遺産リスト入りは、特別法制定により一度は回避されたが、結局10年後の2007年に、①外来種問題、②観光の発展と移民の増加を理由に危機遺産リスト入りする事態となった。この2点は無関係ではなく、後者が前者の原因となっている。
ガラパゴスの外来種問題は過去数世紀の間に家畜や農作物などから始まった。しかし最近では、観光客や物資を運ぶ飛行機・船でひそかに運ばれ、非意図的にガラパゴス諸島に上陸する外来種が急増しているのだ。