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4-9. 子どもたちがガラパゴを守る―将来への挑戦(西原弘)

4-9. 子どもたちがガラパゴを守る―将来への挑戦(西原弘)

子どもが多いガラパゴス

 ガラパゴスの人口は、エクアドル統計局(INEC)が実施するセンサス調査によれば、2006年で19,184人である。しかし、実際には調査で把握できていない居住者が不法滞在者も含めて数千人はいるといわれ、実勢人口は3万人近いと推測されている(以下では統計にもとづくデータを紹介する)。

 島別に見ると、観光の中心地であり国立公園管理局、チャールズ・ダーウィン研究所があるサンタ・クルス島が11,262人で、諸島全体の58.7%を占める。ガラパゴス諸島は全体でガラパゴス県という行政区域になっているが、その県庁所在地があるサン・クリストバル島の人口は6,142人(フロレアナ島の約100人を含む)で、全体の32.0%。観光が未開発で漁業中心のイサベラ島は、面積は諸島内最大だが人口は最も少なく1,780人である。

 総人口の31.9%が14歳以下、18.2%が15-24歳で、24歳以下の子ども・若者だけで人口の半分を占めており、非常に若い社会である(65歳以上は2.9%とわずか)。

1998年のガラパゴス特別法以降、大陸本土からの移住は禁止されているが、1998年の14,661人と比べると人口は8年間で4,523人増加した。この増加は基本的には自然増で、単純に年平均増加率に換算すると3.5%。このままのペースだと20年で人口が倍に増えてしまう。ただし、その前の8年間(1990年から1998年)の年平均増加率6.8%(11年で倍増)に比べれば半減している。移民の規制がなければどうなっていただろうか。

ガラパゴスの年齢別人口構成(2006年)

元気な子どもたちの姿をよく見かける(写真はイサベラ島の学校で)。
資料:エクアドル統計局(INEC)

ガラパゴスの年齢別人口構成(2006年)

ガラパゴスの将来は教育にかかっている

 これからのガラパゴスを担うのは、人口の半分を占める子どもと若者である。学校は、3、4歳の子どもが通うプレ・スクール(日本の幼稚園に相当)、次に10学年の初等教育(日本の小学校と中学校に相当)、そして3学年の中等教育(日本の高校に相当)の3段階に分かれる。これらを合わせて諸島内に29校があり、学校に通う生徒数は諸島全体で6,278人、教師は454人(2008年)。また、最近、サン・クリストバル島に大学の分校が開設された。
 15年もたてば、この6,000人以上の生徒はみな学校を卒業し、大人になってガラパゴス社会を支える一員になる。これまでは、大陸本土から渡って来た移民一世が社会の中心だったが、今後はガラパゴスで生まれ育った移民二世・三世の比率が高まっていく。彼らがガラパゴスの生態系に対して正しい知識と理解を持ち、保全活動に協力的な層になれるかどうかが運命の分かれ道だ。

校外学習から始まった環境教育

 チャールズ・ダーウィン財団は、サンタ・クルス島の本部の他に、サン・クリストバル島とイサベラ島に支所を置き、環境教育センターを運営してきた。放課後の校外学習拠点という位置づけになる。
 例えば、イサベラ島の環境教育センターにはゾウガメ友の会という環境クラブがあり、ガラパゴスの生き物について学んだり、子ガメの身体測定やエサやりなど、ゾウガメの保護増殖事業を手伝っている。2004~2006年にかけて、「アジア太平洋生物多様性保全こども会議」(地球環境基金助成事業)により、ゾウガメ友の会のメンバーが合計6人日本に招待され、日頃の活動内容を発表し、同世代の日本の子どもたちと交流した。

環境教育からESD(持続可能な開発のための教育)へ

 イサベラ島の環境教育センターは、2009年から、政府機関との共同事業としてCentro Alegria(ハピネス・センター)に衣替えして、社会、文化、環境の3本柱で、持続可能なガラパゴスを目指す活動を開始した。サン・クリストバル島でも同様の計画があり、2010年には合計200人の子どもたちが“ハピネス・センター”の活動に参加する見込みだ。
 学校教育における環境学習のカリキュラム・教材の開発や、それを教える教師の訓練も重要である。このため、2009年初めには、155人の教師と、45人の学校関係者を対象にしたワークショップが開催された。

 さらに、地域社会に対しては、地元のテレビ・ラジオ・新聞も活用し、水の使用、廃棄物の管理などを向上させるキャンペーンが実施されている。ダーウィンを模した人形劇や、ネイティブ・ガーデン4-11参照)の必要性をわかりやすく説明するコミック形式の小冊子(作成中)など、楽しみながら学べるプログラムが特徴だ。

 これらの活動に対して、トヨタ環境活動プログラムより2009~2010年の2ヶ年にわたる助成が行われている。

 今後のガラパゴスの生態系保全は、何万人という住民の存在を前提として、住民、研究者、行政、教育機関などが協力して行っていかなければならない。今行われつつある「将来への投資」が10年後、20年後に大きく実り、長期にわたり持続可能なガラパゴス社会が築かれていることを信じたい。

環境教育活動の様子

左/「ガラパゴス、私たちが住むところ」
右/住民によるビーチ清掃

環境教育活動の様子

左/チャールズ・ダーウィン人形劇、右/観衆。