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4-7. 海の生態系の脅威、違法漁業 ガラパゴス海洋保護区設定(松岡數充)

4-7. 海の生態系の脅威、違法漁業 ガラパゴス海洋保護区設定(松岡數充)

非調和な植物相

 ナマコ漁が導入される以前にガラパゴス諸島へ移り住んだ人々は、海の資源をほとんど利用してこなかった。細々と利用された資源は底魚クエ類バカラオであった。人々はこれを干物にして本土に輸出していた。またそれ以外の海洋資源の活用として製塩があったが、サンティアゴ島には製塩施設のあとが残されているだけで、事業としては成功しなかった。

沿岸生態系と漁業の競合

 1990年代にはガラパゴス諸島のナマコ資源が注目され、大陸からにわか漁師も含む多数の移民がガラパゴス諸島にやってきた。ナマコ漁では、潜水漁法の導入に加え、適切な資源管理が行われなかったことから、潜在資源が急速に減少した。ダーウィン研究所の調査研究結果によると、漁民の居住地から遠く離れているフェルナンディナ島とイサベラ島の間にあるボリバー海域でもナマコ資源の減少が顕著であり、居住地にほど程近いプエルト・ビジャミル沿岸域ではほぼ壊滅状態にあるという。

 ガラパゴス諸島には漁獲対象となる2種のイセエビ類(red lobster/アカエビ、green or blue lobster/アオエビ)と、ゾウリエビ類が生息する。イセエビ類は1960年代からエクアドル本土の漁民(ダイバー)の漁獲対象とされ、年間約70トンを捕獲していた。1980年代に潜水操業が取り入れられ、さらに1980年代後半にはイセエビ類が活動する夜間の操業によって多量のイセエビ類が漁獲された。捕獲されたイセエビ類の尾部を切断し、冷凍加工後に輸出されている。

 サメ類はナマコ類と同様に中華料理の食材として主要な漁獲対象資源である。外国籍漁船の密漁対象になっており、現場ではヒレを断ち切った後、胴体部分は投棄されているという。

漁獲されたナマコとイセエビ

左上/漁民が捕獲したナマコの体長を計測する国立公園局職員(イサベラ島にて、波形克則撮影)。右上/計測後のナマコは小さすぎると自然に帰す(波形克則撮影)。下/漁獲対象となるイセエビ類(サンタ・クルス島魚市場にて、波形克則撮影)。

漁獲されたナマコとイセエビ

海洋保護区の設定、禁漁へ

 水産資源に関する調査・研究は沿岸生態系保全の視点から1976年以降、積極的に推進されてきた。

 1978年にガラパゴス諸島が世界自然遺産として登録された。が、この頃から島民による漁業活動が積極的に展開されたことにより、ナマコ類やイセエビ類の資源が減少した。それが沿岸生態系に与える深刻な影響を踏まえ、1987年にガラパゴス海洋保護区の設定が検討されるようになった。この保護区は最北端にあるウォルフ島やダーウィン島を含み、ガラパゴスの島々の外洋に面した最先端を連ねる線をベースラインとし、さらにその外側の40マイルまで拡張した海域として設定された。

 1998年には海洋環境や海洋生物も含めたガラパゴス諸島全域を保護・保全対象とするガラパゴス特別法が地元住民や漁業関係者も関与して制定されるとともに、あわせて第2回海洋保護計画が策定された。そこでは海洋保護区を、多目的利用ゾーン、制限付き利用ゾーン、港湾ゾーンに大別し、制限付き利用ゾーンを保護ゾーン、保護・非産業ゾーン、保護・保全・非産業ゾーンに区分して設定した。これにより2001年には海洋保護区もガラパゴス諸島の自然遺産として登録されることになった。

 それにもかかわらず、違法操業によるナマコ資源の枯渇が顕著になり、2006年には禁漁処置がとられるまでに悪化した。しかし、今でも違法漁業は続いている。また、エコツーリズムの隆盛により来訪者も急増の一途をたどり、社会インフラが不十分であることも手伝って、沿岸海域への過剰な負荷が増大し続けている。

海洋保護区

ベースラインから40マイル沖合までが保護区に設定されている。この海洋保護
区も世界自然遺産に登録されている。

海洋保護区

地元の漁師

停泊している観光船に、魚を売りにきた地元の漁師たち。彼らは必要な量だけを漁獲するので、問題となっている違法操業には該当しない(波形克則撮影)。

地元の漁師