ガラパゴスには、カツオドリ科のカツオドリ3種が生息する。アオアシカツオドリ、ナスカカツオドリ、アカアシカツオドリである。いずれも固有の亜種だ。かつての船乗りたちが「まぬけ」もしくは「ピエロ」を表す「Bobo」と呼んでいたことから、これが英訳されBooby(ブービー)と付けられた。無防備に近付いては捕まえられていたことや、ピエロのようなしぐさをすることによるらしい。日本語の「カツオドリ」は、カツオ漁の漁師たちが、カツオドリが集まる場所にカツオの群れがいることから、漁場の目安にしたことが由来のようだ。
アオアシカツオドリの採餌にペリカンが参戦(イサベラ島プエルト・ビジャミルの海岸にて波形克則撮影)。
写真左/エスパニョラ島、中/エスパニョラ島、右/ヘノベサ島にて、波形克則撮影。
3種の生息・営巣地は重なったり接近していたりはするものの、採餌場所については異なり、種間の争いがない。アオアシカツオドリの採餌は沿岸で行われ、15m以上の上空からミサイルのようなダイブで海面近くの小魚を採る。多いときで数百〜数千羽の集団で行われ、これにグンカンドリやクロアジサシ、ウミツバメ、小魚を狙うカツオやマグロなども“参戦”して、壮大な採餌ショーとなる。
真っ青な足、おどけたような顔つき、かわいらしいしぐさから、諸島の人気者。天性の無防備ぶりから、かつては人間に捕獲され、食料にされたこともある。幼鳥では全身が茶色だが、成鳥になると腹側が白で背側が茶色、翼がより濃い茶色となる。雌雄がペアでいるときは性別の区別が容易。メスのほうが体がやや大きく、目の虹彩も明らかに大きい。足の青色は、メスの方がより濃い。
溶岩からなる諸島の地面の上では、真っ青な足がいっそう際立つ(ノース・セイモア島にて、波形克則撮影)。
海に近い場所にコロニーを作って営巣する。餌が豊富にあるときは、繁殖は一年を通じて行われる。求愛行動はきわめてユニークだ。まずオスがメスに繁殖場所を示すため、くちばしと尾羽を空に向け翼を半開にする姿勢をとる(スカイポインティング)。その後オスはメスの前で尾羽を上に向けたまま、一歩一歩行進(足踏み)する。メスが同様の行動をとると、晴れてペアとなる。
繁殖中はメスの足の青が一層濃くなる。最新の研究では、前年繁殖をしていないオスの足の色はより青く鮮やかで、繁殖を済ませたオスの足は色が薄いことが分かった。青色が濃い個体はより繁殖しやすい。足の青色は、この部分にあるカロチノイドとコラーゲンの反射によるもので、前者は免疫系統を強化する作用があるため、健康の指標となるら。つまりメスは、より鮮やかな青足の持ち主を選ぶことで、より健康なオスを選んでいることになる。
3種の中でもっとも体が大きい。真っ白な羽毛で覆われ、翼の先と尾羽の先端に黒い帯がある。くちばしは黄色。アオアシ同様、メスの方がやや大きいが、それ以外では雌雄の区別はつかない。繁殖期は島によって異なるが、1年中繁殖期が続くほかの2種に比べると、決まった時期を持つ。例えばヘノベサ島では8〜11月、エスパニョラ島では11〜2月が産卵期だ。アオアシのような派手な求愛ダンスはない。メスは2個の卵を産むが、先に生まれた雛は、後に生まれたヒナはあとに生まれたヒナが孵ると巣から追い出し、追い出されたヒナは餌を与えられず餓死する(これは「兄弟殺し」という)。また、少し大きくなった幼鳥が巣に1羽でいるとき、親以外の成鳥が巣に入り幼鳥を攻撃したり、逆に親のように羽づくろいする奇妙な行動をとることがある。最新の研究では、これらの独特かつ不可思議な行動には、雄性ホルモン(テストステロン)が関係していることがわかってきたが、この仕組みがどのように選択され、集団内に定着したかは解明されていない。
ヒナは少し成長すると、背側の羽毛が茶色になる。営巣するのは岸壁近く。岩の上に白く見えるのは排泄物(赤間亜希撮影)。
3種の中でもっとも体が小さい。このため、ノスリやフクロウなどの猛禽類に襲われやすく、生息・繁殖地も、これらの天敵がいない場所か少ない場所に限られる。鮮やかな赤色の足が特徴だが、樹上にいることが多く、足はあまり見えない。くちばしは水色、目の周りは青色、くちばしの根元はピンク色と優美な面構えである。成鳥の羽毛は、褐色タイプと白色タイプに分かれるが、よく見られるのは前者である。求愛行動は樹上で行われ、頭を振ったり、スカイポインティングをしたりはするが、アオアシのように目立つダンスはない。枯れ枝などを集めて低木の枝の上にかなり丈夫な巣をつくる。採餌は、アオアシが諸島沿岸、ナスカが沖合で行うのに対し、アカアシは外洋まで出て行う。そのため、観光客が採餌の様子を見ることはほとんどない。
ひとつの亜種にもかかわらず羽毛の色が2タイプあることは、この鳥の特徴のひとつ(ヘノベサ島にて、波形克則撮影)。