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3-8. ガラパゴスマネシツグミ 進化論のきっかけとなった鳥(樋口広芳)

3-8. ガラパゴスマネシツグミ 進化論のきっかけとなった鳥(樋口広芳)

 ガラパゴス諸島の溶岩の上や低木上で、ダーウィンフィンチ類よりもひとまわり大きく、尾が長めの鳥がいたら、それはガラパゴスマネシツグミ類だ。キーキーとかん高い声で鳴いているか、抑揚のある大きな声でさえずっているだろう。

 ガラパゴスマネシツグミ類は、ガラパゴス諸島に固有の属(Nesomimus)である。4種に分類され、どの種も灰色、黒、褐色などからなる目立たない羽色をしている。大きさは全長25〜28㎝、日本でみられるツグミを思わせるところがあり、その尾を少し長めにした感じの鳥だ。ただし、くちばしはツグミと違って細長く、下方にやや湾曲している。アジアで見られるツグミ類とは別の科に属し、アメリカ大陸に分布するマネシツグミ類に近縁だが、属が異なる。

ガラパゴスマネシツグミ

和名  ガラパゴスマネシツグミ類
英名  Galapagos Mockingbird
学名  Nesomimus spp.
全長  13~16 cm
分布
  
ガラパゴスマネシツグミ類としては、ガラパゴス諸島全域
生息数 不明

ガラパゴスマネシツグミ

サンタ・クルス島にて、波形克則撮影。

 ガラパゴスマネシツグミ類は諸島の多くの島で見られ、人おじしない鳥としてよく知られている。人の足もとまで寄ってくることは珍しくなく、人のあとにもついてくる。19世紀の航海時代には、人の肩や腕などに止まったり、靴ひもを引っぱったりもしていたようだ。

ガラパゴスマネシツグミ

人おじせず、足もとまで寄ってくる。ヘノベサ島にて樋口広芳撮影。

ガラパゴスマネシツグミ

4種のマネシツグミの分布

 4種のうち、ガラパゴスマネシツグミN. parvulus)は諸島内に広く分布し、島によって羽色やくちばしの形状が少しずつ異なる。チャールズマネシツグミN. trifasciatus)は、フロレアナ島近隣のガードナー島とチャンピオン島に分布(フロレアナ島ではおそらく絶滅)、フードマネシツグミN. macdonaldi)は、エスパニョラ島とその沖にあるガードナー島に生息、チャタムマネシツグミN. melanotis)はサン・クリストバル島にだけ棲む。ダーウィンフィンチ類と違って、ひとつの島に複数の種が棲むことはない。適応放散に至る前段階の鳥であるのかもしれない。

マネシツグミの生活

 乾燥地域の低木やサボテンなどからなる開けた環境、あるいは沿岸部のマングローブに棲む。このマネシツグミの生態を特徴づけるのは、多様な採食習性である。地上や低木上で、ガの幼虫、コオロギ、バッタ、ムカデなどの動物質のものから、木や草の実、花蜜などいろいろいなものをとって食べる。海鳥の卵を割って中身を食べたり、小鳥のヒナを食べたり、リクイグアナの体からダニをとったりもする。動物の傷口から血をなめとったり、尻を突いて組織の一部を引き裂いて食べたりすることもある。さらには、ガラパゴスアホウドリの親鳥がヒナに吐き戻す餌をついばみ取ろうとすること、人が持ち歩く水やジュースを飲もうとすることもある。

 定住性と群れになる性質が強く、数羽から数10羽の群れで生活し、ある広さの空間をなわばりとして集団で防衛する。なわばりの境界線上で、異なる集団の鳥たちが対峙していることもある。集団内には優劣の関係があり、優位の個体は、他の個体が発見した食物でも優先的にありつけることが多い。繁殖期にも、数つがいの成鳥と前年生まれの若い個体数羽からなる群れになって協同繁殖する。ヘノベサ島でのガラパゴスマネシツグミの観察によれば、なわばりの広さは約2.5ha、集団が大きいほど大きくなる傾向がある。なわばり内に個々の成鳥のメスが巣をつくり、一巣あたり2~4個の卵を産む。産卵時期は1月から4月頃まで。若い個体は子育てを手伝い、それによって繁殖の成功率が上がる。

マネシツグミの脅威となるもの

 ガラパゴスマネシツグミ類は、かつてゾウガメなどと同様、人によって大量に捕獲された。チャールズマネシツグミは、国際自然保護連合が発行する『Red Data Book』で絶滅危惧ⅠB類(Endangered)に指定されている。フロレアナ島では多数生息していたが、1888年までに絶滅してしまった。現在では、近隣の小島、ガードナー島とチャンピオン島に500羽弱が生息するだけと推定されている。乾燥によって生息条件が極端に悪化するラニーニャの年には、個体数は急減する。フロレアナ島での絶滅は、人による捕獲以外に、移入されたクマネズミによる卵やヒナの捕食、ヤギによる植生破壊などによるものと考えられている。フードマネシツグミは、絶滅危惧Ⅱ類(Vulnerable)に指定されている。総個体数は1,000~2,500と推定され、やはりラニーニャの年には個体数が急減する。他の2種は、特に問題になる状態ではないが、小さな島では、移入されたネズミやネコが、将来、脅威となる可能性はある。

マネシツグミ

チャールズ・ダーウィン研究所周辺にいたマネシツグミ(笠木朗撮影)。

マネシツグミ