ダーウィンフィンチ類は、ガラパゴス諸島に13種、ガラパゴス諸島の北方700〜800㎞にあるココス島に1種が分布する。ほぼスズメ大の小鳥で、どの種も黒色または褐色からなる地味な羽色をしている。種によってくちばしの形状が多様に分化しており、分厚いシメのようなくちばしをもつ種から、ムシクイ類を思わせる細いくちばしの種までいる。ダーウィンフィンチという名は、この地を訪れ、進化についての着想を得たチャールズ・ダーウィンにちなんでつけられた。ただし、ダーウィンはガラパゴス滞在期間中には、この一群の小鳥がもつ進化的意義についてきちんと把握はしていなかった。
和名 ダーウィンフィンチ
英名 Darwin’s Finches
学名 Geospizinae
全長 13~16 cm
分布 ガラパゴス諸島全域
生息数 不明
ガラパゴス諸島に棲む13種は、くちばしの形状や羽色、生態、行動によって4つの属に分けられる(ただし分類は研究者によって異なる)。地上フィンチ類(Geospiza属)は、ヒワ型のがっしりしたくちばしを持ち、おもに地上で草木の種子などを採って食べる。サボテンの実を好んで食べるものもいる。樹上フィンチ類(Camarhynchus属)は、太めのくちばしを持ち、おもに樹上で昆虫を好んで食べる。植物食樹上フィンチ(Platyspiza属)は、太くて下方にやや湾曲したくちばしを持ち、おもに樹上で草木の実や芽など植物質のものを好んで食べる。ムシクイフィンチ属(Certhidea)は、ムシクイ類のように細いくちばしを持ち、おもに樹上で小昆虫を採って食べる。
ダーウィンフィンチ類はガラパゴス諸島内に広く分布するが、どの島にもすべての種がいるわけではなく、大きな島ほど多くの種がいる傾向がある。種ごとにくちばしの形状などが異なっているのだが、同じ種でも島によって違いがあるため、野外での種の識別は難しい。どの種がどの島に分布しているかをあらかじめ知っておくことが、識別上の重要なポイントになる。
ダーウィンフィンチ類は分類学上、ホオジロ科あるいはフウキンチョウ科の1グループとされ、おそらく、中南米に分布するクビワスズメ属(Tiaris)の鳥がもっとも近縁である。いずれにしろ、もとは1種の小鳥がガラパゴス諸島にたどりつき、その後、多くの種に分化した。分化の過程は次のようなものであったと考えられる。
まず、少数個体がおそらくはアメリカ大陸からガラパゴス諸島のどこかにたどりついた。新天地で個体数を増やし、やがてほかの島へと移住していった。そこで独自の遺伝的変異を蓄積し、またその島の環境にも適応していった。個体数の増加にともなって、あるいは火山活動の影響を受けて、その後さらに他の島へと移住していき、その過程で最初の島の個体群と接触するようになった。だが、それまでに蓄積していた遺伝的変異がすでに十分大きいものであったため、2つの個体群は交雑することなく共存することになった。また食物などをめぐる競合も起こさなかった。こうして、ひとつの種から2つの種が誕生することになった。この「種分化」の過程は、その後も同じようにして繰り返され、次々に新しい種が分化していった。同じ島に棲むことになった複数の種は、それぞれが独自の棲み場所や食物を利用するようになり、くちばしなどの形状をさらに変化させていった。こうして、もとはひとつの種から多様な10数種もの鳥が分化していくことになった。この過程や現象は「適応放散」と呼ばれる。
DNAの塩基配列にもとづく種分化や系統の研究によれば、まずムシクイフィンチ(Certhidea olivacea)が分かれたのち、ハシブトダーウィンフィンチ(Platyspiza crassirostris)が分かれ、残りがその後、地上フィンチ類と樹上フィンチ類に分かれたと推定される。ガラパゴスでダーウィンフィンチ類が種分化と適応放散できたのは、上記の過程からわかるように、そこにいくつもの島があったからだと思われる。ダーウィンフィンチ類の1種ココスフィンチ(Pinaroloxias inornata)が棲むココス島は単一の島であり、種分化も適応放散も起きていない。
ダーウィンフィンチ類は、現在も進化のただ中にいると考えられる。プリンストン大学のピーター&ローズメリー・グラント夫妻は、諸島内の小島のひとつであるダフネ島に棲むガラパゴスフィンチ(Geospiza fortis)を対象に、食物となる植物の種子の量や大きさとフィンチのくちばしの関係を30年以上にわたって調べた。その結果、エルニーニョや大干ばつなどによって変化する種子の大きさに合わせて、フィンチのくちばしの大きさも変化することを確かめた。つまり進化が「目に見える」現象であることを明らかにした。これについては、『フィンチの嘴』(J・ワイナー著、早川書房)に詳しい。
ダーウィンフィンチ類の中には、奇妙な習性をもつものがいる。道具を使う鳥、ほかの鳥を傷つけて血をなめとる鳥、卵を足でけって割って食べる鳥などである。道具を使う鳥としては、キツツキフィンチ(Cactospiza pallidus)が知られている。この鳥は木の幹や太枝の中に潜む昆虫の幼虫を、小枝やサボテンのとげを使って引きずり出して食べる。キツツキ類のように長く突きだせる舌はもっていないが、その代わりに小枝などの道具を使ってキツツキ類と同じようなことをしている。血をなめるのは、ハシボソガラパゴスフィンチ(Geospiza difficilis)だ。カツオドリ類などの太い羽軸の根元あたりを突いて、流れでた血をなめとる。卵を割って食べるのもこの種。海鳥の大きな卵を足でけって岩にぶつけて割り、中身を食べる。長く続く乾燥などの過酷な生活条件の中で、こうした新たな習性を身につけていったものと思われる。