キービジュアル

3-6. ガラパゴスウミイグアナ 世界で唯一海に潜るイグアナ(奥野玉紀)

3-6. ガラパゴスウミイグアナ 世界で唯一海に潜るイグアナ(奥野玉紀)

 ガラパゴスウミイグアナは、「ウミイグアナ属」の固有種であるが、諸島で最もよく目にする動物でもある。諸島全体でおよそ約70万頭生息しており、ほとんどの島の海辺で見ることができる。

 島ごとに数亜種に分類されることもあるが、エスパニョラ島亜種とその他の亜種とに分けるのが一般的である。エスパニョラ島のウミイグアナは体の赤みが強いのが特徴で、これに薄緑色が混ざった個体も見られる。島による違いとしては、イサベラ島に生息する個体は体が大きく、体長1.3m、体重12kgにおよぶ一方、最も小さいのはヘノベサ島の個体で、体長約75cm、体重1kg以下である。この違いは餌となる海藻の量によるとされる。
 オスはメスよりも大きく、頭上のトサカ(トゲ)が発達しており、繁殖シーズンになると体の色が目立って赤色または赤緑色になる(エスパニョラ島亜種で顕著)。

1属1種のウミイグアナ

和名    ガラパゴスウミイグアナ
英名    Galapagos Marine Iguana
学名    Amblyrhynchus cristatus
全長・体重 種により大きく異なる(本文参照)
分布    諸島全体の海岸沿い
生息数   約70万頭(2003年)調査による推計値)

1属1種のウミイグアナ

フロレアナ島にて波形克則撮影。

海に潜って採餌する

 世界のイグアナの中で唯一海に潜り、海藻(主に緑藻と紅藻)を削ぎ取るように食べることで知られるが、体の小さいメスや子どもは、退潮時の潮間帯の岩場で採餌する。オスは、数分〜長いときで30分、深さ10m程まで潜るが、岸から50m以上遠くまで泳ぐことはほとんどない。手足の爪は鋭く、岩にしっかりとつかまることができる。ガラパゴス周辺は、流れ込む寒流の影響で水温が10℃以下になることもあり、変温動物で代謝が低いイグアナが長時間海に潜ると体(筋肉)が動かなくなるという。

集団で日光浴

溶岩の上で日光浴をするウミイグアナの集団。太陽と溶岩の両方から暖をとっている(フェルナンディナ島プンタ・エスピノサにて、波形克則撮影)。
集団で日光浴

 体温の低下にともない海藻を噛む回数が減るという研究結果もあり、体温と採餌効率には相関がある。海から帰ると、黒い溶岩の上で日光浴をして体を温める。これは腸内細菌を活性化させて消化を促進する働きもある。体温が低いときは、体を太陽に向かって垂直にして日光が十分体に当たるようにし、体温が十分(36℃程度)上がると、太陽を正面に見て、日の当たり具合を調節する。また、体温が上がりすぎると、腕立て伏せをするように腹側に風を通したり、日陰や海水だまりに入ったりする。このように、一日のほとんどをあまり動かず、体温調節に費やすが、これは捕食者が少ないためにできることでもある。

ウミイグアナの繁殖

 ウミイグアナの鼻孔には、採餌中に摂り過ぎた塩分を体内から排出する腺が発達しており、しばしば勢いよく吐き出す姿が見られる。これは外敵への威嚇にも使われる。もっとも体が大きく経験のあるオスが縄張りを持ち集団を作るが、交尾の選択権はメスにあり、体の大きなオスを選ぶ傾向にあるという。生まれる子どもが大きい方が天敵に襲われにくいからだといわれる。

 繁殖シーズンは、生息する島や亜種によって異なるが、だいたい12〜1月に始まり、雨期の終わりの3〜4月に、浜に1mほどの穴を掘って1〜6個の細長いだ円の卵を産む。卵から出てくる子どもは10cmほどで、およそ半数はノスリやフクロウ、サギやヘビに捕食される。最近では、人間がペットとして持ち込んだイヌやネコが野生化して、生まれたての子どもを食べる姿がしばしば目撃されている。誕生から5年ほどで成熟する。

マネシツグミの声を聞き分ける

 最近の研究で、ウミイグアナが、マネシツグミが発するノスリ(猛禽類)への警戒音声を聞き、天敵(ノスリ)から逃れる行動をとっていることが報告された。同種内では音で交信をしない種が、まったく異なる種の発する音(鳴き声)をたよりに行動することが明らかになった、初めての例とされた。

エルニーニョの影響

 ウミイグアナにとって一番の脅威は、数年に一度訪れる気象現象、エルニーニョである。大量の降雨や、気温と海面温度の著しい上昇をもたらすエルニーニョ時は、ウミイグアナの主食である緑藻や紅藻が彼らの消化できない褐藻にとって替わり、餌を失う。

木登りするハイブリッドイグアナ

鋭い爪で木を登り、サボテンの葉肉を食べることができる(サウス・プラザ島にて、波形克則撮影)。

木登りするハイブリッドイグアナ

 エルニーニョの末期には、海岸がウミイグアナの死骸でいっぱいになる。ある研究者が、1997年の巨大エルニーニョ発生時、ある地点のウミイグアナの生息数を調べたところ、約90%減少したと報告している。彼はその後、この生死の分かれ目について研究し、最新の論文で「ストレスに反応して放出されるコルチコステロンというホルモンの量が、飢餓状態の時の生死を分ける」と報告した。このホルモンは、体に蓄えられている脂肪やタンパク質を、エネルギーとなるブドウ糖に変換する作用があり、エルニーニョ初期に強く反応してホルモンが大量に放出されると、末期まで生き延びることができないのではと推察している。ウミイグアナの寿命は約30年と、リクイグアナの半分程であり、これもエルニーニョの影響ではないかとされている。またエルニーニョ時には、体長が明らかに短くなることが報告されているが、そのメカニズムはまだ解明されていない。

 1980年代後半、サウス・プラサ島でウミイグアナとリクイグアナが交配した交雑個体(ハイブリッド)が発見された。1982年のエルニーニョの際、餌を失い陸に向かったウミイグアナのオスがリクイグアナのメスと出会い、交配して誕生したとされる。ウミイグアナに似て爪が鋭いが、生息場所はリクイグアナと重なる。これまで3頭が発見されているが、繁殖能力の有無は確認されていない。