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3-12. ガラパゴスペンギン 赤道直下に生息できる理由(平川貴子)

3-12. ガラパゴスペンギン 赤道直下に生息できる理由(平川貴子)

 北極周辺に生息するホッキョクグマと南極のイメージが強いペンギンは、寒い地域の代表格のように、はたまた地球温暖化の象徴のように、テレビCMや広告のビジュアルとして頻繁に登場する。ところが、ペンギンは南極だけでなく南半球の広い範囲に生息している。日本と同じ温帯気候の南米の一部や、オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカなどに18種が分布する(研究者によって16種、17種とする説もある)。

 このうちの1種がガラパゴスペンギンだ。その名のとおりガラパゴス諸島の固有種で、ペンギン全18種のなかで唯一熱帯に適応し、分布する。赤道直下で暮らすこのペンギンについて、他のペンギンと比較しながら、その特徴を見ていこう。

ガラパゴスペンギン

和名     ガラパゴスペンギン      
英名     Galapagos Penguin      
学名     Spheniscus mendiculus      

全長・体重  50 cm/2.5 kg      
分布     イサベラ島、フェルナンディナ島がおもな繁殖地。バルトロメ島、
       フロレアナ島でも少数確認。
      

生息数    約1,770羽(チャールズ・ダーウィン研究所2007年9月調査結果)      

フェルナンディナ島にて、波形克則撮影。

外見の特徴─同属のペンギンとの比較

 ガラパゴスペンギンの学名「Spheniscus mendiculus」は、「物乞いのような」という意味で、前傾した姿勢に由来する。

 フンボルトペンギン属(スフェニスカス属/Spheniscus)に属するが、フンボルトペンギンといえば、日本の動物園・水族館でもっとも多く飼育されている種であり、私たち日本人にもなじみ深い。この属には、ガラパゴスペンギンの祖先といわれるマゼランペンギンと、南アフリカに生息するケープペンギンを含め、計4種がいる。よく似た外見をしているが、識別のポイントは、胸もとに走っている黒い帯の本数。帯が1本ならフンボルトかケープ、2本ならマゼランかガラパゴスだ。

 マゼランとガラパゴスは羽毛の色や大きさで区別できる。全体的に灰色がかった羽毛でコントラストの低い色みをしているのがガラパゴスペンギンである。また、マゼランの体長が約70㎝であるのに対し、ガラパゴスは50㎝程度。同属のなかでもっとも小さく、ペンギン全18種のなかでも3番めに小さい。

フンボルトペンギン属の外見の違い

イラスト:ペンギン・スタイル(http://www.penguin-style.com/)
©vice versa Co. Ltd.

フンボルトペンギン属の外見の違い

生態の特徴─なぜ赤道直下に生息できる!?

 おもな繁殖地はイサベラ島フェルナンディナ島。ガラパゴスペンギンの約95%もの個体がこの2つの島に分布する。イサベラ島北部は赤道を超え北半球にはみ出しているが、ここにも彼らの営巣地がある。したがって、彼らは“野生のペンギン”としては唯一北半球にも棲む種であるといえる。

 ガラパゴス諸島に流れ込む寒流は、このペンギンたちにとって生命線だ。海水温20℃前後の寒流は、彼らの餌となる小魚をもたらす漁場であると同時に、赤道直下の強い陽射しからの逃げ場でもある。ガラパゴスペンギンは、この寒流が流れ込む地域に生息していることも含めて、「熱帯に適応している」のである。

繁殖の特徴─海水温と餌の量が成功率を決める

 ガラパゴスペンギンは、直射日光を避けるため、溶岩の割れ目など日陰に巣をかまえ、卵やヒナを暑さから守る。表面海水温が低くなり餌が豊富になると、繁殖を開始する。餌の量が多いほど繁殖成功率が上がるといわれる。反面、餌が不足すると繁殖を行わないばかりか、繁殖を開始していた場合でも途中でやめてしまう。ヒナは4週齢まで巣にとどまり、親鳥から給餌される。エンペラーペンギン属などに見られるクレイシ(ヒナが集まる保育所)は形成されず、孵化後60~65日で巣立っていく。巣立ち間近のヒナは水中での生活に適応した羽毛に生え換わる(これを換羽(かんう)という)。ペンギンは成鳥になっても、羽毛の防水機能を保つために年1回換羽を行うが、ガラパゴスペンギンのみ年に2回行う。

ガラパゴスペンギンの脅威となるもの

 最大の脅威はエルニーニョだ。エルニーニョが発生すると、餌となる小魚が海中深くに移動してしまう。すると、餌不足に陥り、子育ての失敗や餓死を引き起こす。結果、個体数は著しく減少してしまう。1982~83年に発生したエルニーニョのときは約77%減少、1997~98年のエルニーニョでは約66%が減少し、2000年にはとうとう絶滅危惧種に指定されてしまった。

 近年の生息数はほぼ安定しているが、新たな脅威も襲いかかっている。蚊が媒介する鳥マラリアだ。これは、ハワイの固有種であるハワイミツスイの亜種を絶滅させた原因のひとつといわれる。ハワイのように隔絶された地で進化した鳥類は、鳥マラリアに対する免疫力が低い。ハワイ同様に孤島であるガラパゴス諸島。ここに棲むペンギンにも同じことが起こる可能性は捨てきれない。

 ハワイでの悲しい歴史は19世紀後半のこと。ガラパゴスペンギンからマラリア病原虫が発見されたのは、2007年だ。現地でのさらなる追加調査や検疫強化に期待したい。

ガラパゴスペンギンの家族

溶岩の上でひと休みするペンギン。こんな絵はガラパゴス諸島でしかお目にかかることができない(フェルナンディナ島にて、波形克則撮影)。

ガラパゴスペンギンの家族