ガラパゴスアホウドリは、熱帯地方に棲む唯一のアホウドリ類である。全長85〜93㎝、翼を広げた長さは230〜240㎝にもなる、ガラパゴス諸島で最大の鳥だ。頭から首にかけては黄色味が混じる白、体は褐色、くちばしはアホウドリ類としては長く黄色い。大きく黒い目とともに、実に愛らしい顔立ちの鳥だ。ガラパゴス諸島の中では、最南端のエスパニョラ島でのみ繁殖する。
和名 ガラパゴスアホウドリ
英名 Waved Albatross
学名 Diomedea irrorata
全長 85~93 cm
分布 ガラパゴス諸島、繁殖地はエスパニョラ島
生息数 50,000~70,000
エスパニョラ島にて、波形克則撮影。
エスパニョラ島では、低木に囲まれた開けた土地の溶岩の上に群れになって営巣する。営巣地は島の南部の沿岸域に集中している。繁殖つがい数は12,000ほど。ただし巣と巣の間はある一定の距離が保たれ、場合によると数十〜数百mも離れている。3月下旬になるとこの地にやってきて、雌雄で首を振ったり、口を大きくあけて鳴いたり、あるいはくちばしを絡ませたりしながら、大げさな身振りの求愛ダンスを行う。この求愛行動は、同様の行動を見せる多くのアホウドリ類の中でもとりわけ際立っている。産卵は4月上旬から始まり、6月中旬まで続く。卵は地上にじかに産み、産卵数は1個。卵の重量は280gほどもある。抱卵期間は2カ月ほど、雌雄交代で温めるが、交代するまで1羽で19〜22日も抱卵する。ヒナは黒褐色をしており、生まれてから巣立ちまで、平均して167日ほどもかかる。ヒナが巣立ちを迎えるのは12月。1年の4分の3を繁殖に費やしていることになる。
ガラパゴスアホウドリは、相手が死なない限りペアを解消しない。個体識別された研究によれば、離婚の例は皆無だ。2羽で繰り広げられる求愛ダンスは、新しいペアの形成に必要なことだが、同時に互いの絆を強めるのにも役立っている。おだやかな時間が流れる中で、ペアが寄り添い、ただずむ光景は実にほほえましい。
ガラパゴスアホウドリは、頻繁にペルーやエクアドルの西岸にまで採食に出かける。この地域はフンボルト海流が流れ込む湧昇流域で、世界有数の漁場である。衛星を利用した追跡調査によれば、鳥たちは抱卵から育雛(いくすう)の期間中、ガラパゴスからこの地域まで、最短でも1,200㎞ほどの距離を採食のために移動する。それだけの距離を移動しても見合うだけの食物を、そこで得ることができるからだろう。私たちが追跡したある繁殖個体の例では、往復総延長3,500㎞を16日間かけて移動した(次ページ図を参照)。私たちの身のまわりにいるスズメやシジュウカラが、繁殖期間中に半径数100mの範囲で採食し子育てしているのとは、まったく対照的な生き方といえる。ただし、繁殖期間中でも繁殖しないアホウドリはガラパゴス近海にとどまって生活しているようだ。ヒナを育てたりするエネルギーを必要としない場合には、長距離の移動にかけるコストを抑えているのではないかと思われる。
ガラパゴスアホウドリの食物は魚やイカ、エビの類である。海面付近を飛びながら、あるいは海中に浅く突っ込んでそれらをくわえとる。しばしばイルカなどによって海面に追い上げられてきた魚などをねらって捕らえることや、カツオドリ類が捕った魚を横取りすることもある。親鳥がヒナに与えるのは、魚やイカが胃の中で消化され油状になったものだ。これらを体内に貯め込みつつ、20日もの間、海上を飛びながら採食し続けているようだ。
ガラパゴスアホウドリは1月から3月にかけてはガラパゴスを離れ、エクアドルやペルーの沿岸域ですごす。また若鳥は、おそらく生後何年間かはこの豊かな漁場ですごし、ガラパゴスには現れない。若鳥が繁殖年齢に達するのは生後5~6年。寿命は30~40年と推定されている。
ガラパゴスアホウドリの総個体数は、50,000~70,000と推定されている。近年、目立った減少傾向はないようだ。エスパニョラ島は効果的に保全されており、観光も制限されている。ただし、海洋環境の劣化はガラパゴスやエクアドル、ペルーなどの地域でも認められている。今後、それらの環境変化がこの鳥の採食や繁殖、生存にどのような影響をおよぼしていくのかを監視する必要がある。また、最近、エクアドルやペルー沖での漁業がこの鳥に影響をおよぼしているともいわれている。魚網に引っかかって命を落とす個体が少なくないらしいのだ。この点も今後、十分に監視していく必要がある。