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3-10. グンカンドリ 赤いのど袋で求愛(奥野玉紀)

3-10. グンカンドリ 赤いのど袋で求愛(奥野玉紀)

 諸島には、グンカンドリ科に属するグンカンドリが2種生息している。オオグンカンドリアメリカグンカンドリで、後者は諸島固有の亜種である。グンカンドリは熱帯地域の広い範囲で見られ、諸島でもこの2種は広く分布する。体長は1mを超え、翼を広げた長さ(翼長)は2.5m近くになる(オオグンカンドリの方がやや小さい)。グンカンドリは体重に対する翼長比が最大であり、この2種も例外ではない。このため、優れた優れた飛行能力を持ち、羽ばたくことなく長時間飛行することができる。空を飛ぶ姿は、翼竜を彷彿させ、諸島に独特の雰囲気を与えている。

和名           アメリカグンカンドリ(固有亜種)
英名           Magnificent Frigatebird
学名           Fregata magnificens

全長           最大115cm
分布(繁殖がよくみられる場所) ノースセイモア島、ヘノベサ島、
             サン・クリストバル島(プンタピット)

生息数          数千つがい

和名           オオグンカンドリ(在来種)
英名           Great Frigatebird
学名           Fregata minor ridgwayi
全長           最大115cm
分布(繁殖がよくみられる場所) エスパニョラ島、ヘノベサ島、ノース・セイモア島、
             サン・クリストバル島(プンタピット)
             フェルナンディナ島(プンタエスピノサ)

生息数          数千つがい

滑空するグンカンドリ

波形克則撮影。

滑空するグンカンドリ

 2種の形態的な違いは、遠くからでは見分けが難しい。両種とも成鳥では体全体が黒い羽に覆われ、くちばしは長く先端が下方に向いて鋭くとがり、尾は二股に深く割れているのが特徴だ。違いを見ていこう。オオグンカンドリのオスは、背中に緑色の羽を持ち(繁殖中は輝きを増す)、翼に茶色の帯が薄く入る一方、アメリカグンカンドリのオスの背中は、やや紫がかり、翼の茶色の帯は見られない。両者ともオスはくちばしから胸にかけて「のど袋」と呼ばれる赤い部分を持つ。メスのこの部分は、オオグンカンドリでは白い羽に覆われ、アメリカグンカンドリでは白いのは胸だけで、のど部分は黒い。またオオグンカンドリのメスのみ、目の周りが赤いリングで縁取られているのも特徴だ。両種ともメスの方が若干大きい。幼鳥は見分けるのがより簡単である。頭部から胸部にかけて褐色の羽が混ざるのがオオグンカンドリであり、この部分が真っ白なのがアメリカグンカンドリである。

幼鳥の見分け方①

オオグンカンドリの幼鳥。頭部が茶色いのが特徴だ(ノース・セイモア島にて里見嘉英撮影)。

幼鳥の見分け方①

幼鳥の見分け方⓶

アメリカグンカンドリの生後間もない子ども(ヘノベサ島にて、波形克則撮影)。

幼鳥の見分け方⓶

名前の由来にもなった「略奪」漁

 魚やカニなどの甲殻類、生まれたばかりのウミガメやウミイグアナなどの子どもを食べるほか、アシカやオットセイの産後に海岸に残った胎盤を食べることでも知られる(これは猛禽類のノスリやミミズクも同様)。海で漁をするときは、海面すれすれを飛びながら、水面と垂直にくちばしを水に突っ込み、先端のホックのような返しで餌を引っかけるように採る。コバネウと同様、羽には油分が少なく撥水性に乏しいため、水に浸かると水分を吸収しておぼれ死ぬこともある。潜水の上手なコバネウとは対照的だ。オオグンカンドリは沖合で漁をする。観光客が沿岸で採餌を見ることができるのは、固有のアメリカグンカンドリのほうである。

 名前の「グンカン(軍艦)」は行動に由来する。彼らはしばしば他の海鳥の獲物を「略奪」するのだ。例えばカツオドリ類やアカハシネッタイチョウなどが海中へダイブして捕まえた魚などを、くわえている横から奪いにかかる。またカツオドリなどの尾を引っ張ったり揺さぶったりして、食べたものを無理やり吐かせて得ることもある。これは空中で行われ、カツオドリが集団で漁をしている際によく見られる光景だ。この攻撃的な生態から、スペイン語名では「Pajaro Pirata(海賊鳥)」とも呼ばれる。諸島の「悪者」としてよく取り上げられるが、実は略奪による採餌は、漁による採餌に比べて少ない。

のど袋を膨らませて求愛

 繁殖は一年を通じて行われるが、雨期の終わりの3〜4月が多く、時期は餌の量に左右される。オスの求愛行動はユニークで、低木の林の上に作った巣上で、のど袋をバレーボール大にパンパンに膨らませ、頭部を後ろにのけぞらせて、上空を飛び交うメスにディスプレイする。のど袋を誇示するように横にブルブルと震わせながら、オオグンカンドリは人間の子どもがインディアンの真似をするような声で、アメリカグンカンドリでは、「キャキャキャキャ」という声でメスを呼ぶ。繁殖地が一部重なる両種では、このような鳴き声の違いで互いを区別している。

オオグンカンドリの求愛

空を飛んで結婚相手を物色中のメスに、のど袋を誇示して求愛するオス(ヘノベサ島にて、波形克則撮影)。

オオグンカンドリの求愛

 巣は、海からそれほど遠くない場所に枯れた枝などを集めて作られる。だが、あまりよい作りではないため、しばしば卵が落ちてしまい、求愛行動からまた始めることもあるという。

 メスはひとつの卵を産み、オオグンカンドリでは6週間程、アメリカグンカンドリでは8週間雌雄が約1週間交代で抱卵する。孵化後半年〜1年間は親鳥が餌を与える。オオグンカンドリは、沖に出て漁をするため採餌が難しく、親離れには数年かかることもある。このため、繁殖は2~3年に一度の頻度で行われることが多い。生息数は安定しているが、近年の調査結果はない。また、外来種などによる被害も報告されていない。