大洋から海水を取り去ってみると、海底からそそり立つ多数の島やその列が現れてくる。それらの島々は、その成立の由来やたどってきた歴史により大きく大陸島と海洋島に分けられる。まず大陸島は大陸の比較的周辺にあり、過去に大陸と地続きの時代があった島である。地続きの時代には大陸の生物が陸づたいにまとまって進出してきたため、基本的には大陸の生物相の内容を色濃く残しており、いわば大陸の出先のような位置づけとなる。一方、海洋島(大洋島ともいう)とは、海底火山の活動により海洋の中に島が成立し、以来一度も周囲の大陸とつながったことのない島である。はじめは生物のいなかった裸の島に海を越えて徐々に生物が到着し、大陸のものとは異なる独自の生物相が作られていく。
大陸島は大陸と共通した生物相をもち、海洋島は長距離散布・定着に成功した少数の生物からなる独自の生物相をもつ。
※図内の「大陸島」は説明のためのものであり、実在の島ではない。
生物が大海原を越えて大陸から数百km、数千km離れた海洋島に到着することは、翼や翅を持つ一部の生物(鳥や昆虫、オオコウモリなど)を除いては困難かつ偶然に左右されるため、これは数千~数万年に1回といった非常に稀な現象であると考えられている。そもそも海を越えるには、海流に流されるか、風に飛ばされるか、鳥に運ばれるかといった限られた手段しかないので、体の大きいホ乳類や海水に弱い生物(両生類や純粋淡水魚など)は海洋島に渡ることができない(長距離散布の困難さ)。かろうじて到着した種も、最初はごく少数の個体から出発するので、島に定着できずに途中で絶滅するものも多いであろう(定着の困難さ)。こうした制約から、海洋島の生物相は大陸と比べ、全体の構成種数が少なく、特定の生物グループを欠くという特徴がある。
一方で、定着に成功した生物にとって海洋島はすばらしい新天地である。餌や棲みかをめぐる競争相手、あるいは自分を餌とする天敵や捕食者が不在であったり少なかったりするため、大陸に比べるとのびのびと生活圏を広げることができる。
それぞれの種は、生態系の中で独自のニッチ(利用する生息環境と食物の種類によって決まる範囲)を占める。大陸では個々のニッチの幅が狭く接し合っているのに対して、海洋島ではニッチの幅が大きく利用されていない空ニッチがある。
生態系のなかでそれぞれの種が占める位置や地位をニッチ(生態学的地位)という。海洋島では、あるニッチを占める種類が不在である(ニッチが空いている)ことがあるため、大陸では利用できなかったニッチを利用するものが現れる(上図参照)。例えば、キツツキの仲間がいない海洋島では、別の鳥のグループがキツツキのような生活様式をとるように進化することがある。
まず、大陸から島に渡る際、ごくわずかな個体から出発することが考えられる。その際に大陸の集団が全体として持つ遺伝的内容のごく一部しか島には伝わらないといったことが起き、島の個体群では出発点において遺伝的内容に偏りが生ずる。これを創始者効果という。
次に、島での生物進化は個体に生じる遺伝子の突然変異が出発点となるが、この変異が集団に広まるかどうかが進化の分かれ道になる。自然選択の原理によれば、生存に有利な変異は集団に広まり、不利な変異は集団から消滅していく(ただし、有利でも不利でもない中立的な変異は偶然により運命が決まる)。その際に海洋島の個体群のような小さな集団では、変異が短時間のうちに集団に広まりやすい。また、小さな集団では、変異の集団への広がりが偶然に左右されやすいことも知られており、その結果集団の遺伝的内容が自然淘汰によらず偶然に変わってしまう可能性もある。これを機械的遺伝子浮動という。
さらに、長距離散布が稀な事象であることから、海洋島に定着した種には大陸からの後続部隊の供給がなく、大陸の集団(遺伝的内容)とは隔離された状態で進化が進むことになる。広域分布の海岸植物に固有種が見られないのは、後続部隊の到着が頻繁にあって独自の進化が起きにくいためである。加えて、島が単一でなく群島をなす場合には、島ごとの隔離も生ずるので、「大陸-島」の関係が「島-島」の間でも繰り返されて、島ごとに独自の進化が起きやすくなる。これを群島効果という。島ごとに分化を果たした種同士がのちに島間の移動で再び出会っても、もはや交雑はできない(生殖的隔離が成立している)ので、祖先を同じくする複数の種がひとつの島で共存することもありうる。
こういったさまざまな要因が働くことにより、海洋島では時間が経過するにしたがって固有種が誕生し、独自の生物相が作られていくのである。多くの海洋島では、構成種数が少ないこと、生物相に偏りがあること、固有種の割合が高いこと、適応放散的な種分化が見られることなど共通して見られる現象が知られており、それらをまとめて島症候群と呼んでいる。
海洋島の生物のような小集団で、かつ隔離された状態では、さまざまな要因が働いて、独自の進化が進みやすい。