ガラパゴス諸島周辺では人為的排水が少ないにもかかわらず、しばしば赤潮が発生する。赤潮とは、豊富な栄養塩による植物プランクトンの異常増殖によって海水が着色する現象である。人口が稠密する沿岸域では、しばしば工場排水や生活排水、農業廃水などに含まれる栄養塩の増加により海水が富栄養化して渦べん毛藻類やラフィド藻などのべん毛藻類を主とした有害赤潮が発生する。
では、人為的な廃水を要因としないガラパゴス諸島周辺海域の赤潮は、どのような理由で発生するのだろうか。
松岡數充撮影。
ガラパゴス周辺海域で発生する赤潮は、キートセロスなどのけい藻類を主体としたものである。べん毛藻類を主とした赤潮が有害であることが多いのに対し、けい藻類を主とする赤潮は多くの場合ほぼ無害であるばかりか、動物プランクトンや二枚貝類などの餌になるのである。
ガラパゴス諸島周辺で発生する赤潮は、諸島周辺を流れる寒流系のペルー海流や深層流のクロムウェル海流にチッ素やリンといった栄養塩が豊富に含まれていることがおもな原因である。
栄養塩は、食物連鎖の基盤となる植物プランクトンの生育にとって光とともに必要なものであり、その生育において重要な要素だ。見方を変えると、栄養塩が豊富なガラパゴス周辺海域は“生物生産力の高い海域─豊饒の海─”といえるだろう。
深層から湧き上がるクロムウェル海流の影響で、ガラパゴス諸島西側の海水温は非常に低くなるが、深海の栄養たっぷりな海水が上昇してくるため、海洋生物のエサが豊富となる。
図:チャールズ・ダーウィン研究所資料をもとに作成
このような豊かな海に約3,000種もの海洋生物が生息している。大型海藻類は230種で固有種率が26.1%、魚類は444種で固有種率が9.2%、軟体動物は652種で固有種率が22.7%など。海洋には境界がないため、陸上ほどには生物固有性は高くはない。上記の固有種率を見ても、移動能力の大きな魚類のそれは小さいのに対して、付着性の海藻類では大きくなる。これは、ガラパゴス諸島が海洋島であるがゆえに、固着性生物がいったん定着するとそこで独自の進化を遂げることによるのかもしれない。しかし、海洋生物については陸上生物ほどには種構成や種分布についての調査が進んでいない。
ガラパゴス諸島周辺海域は、海流や水温など物理環境の違いによって大きく3つに区分されている。
1.ダーウィン島、ウォルフ島周辺:
最北(Far northern)海洋生物区
2.イサベラ島東岸を境界とした、その西側:
フェルナンディナ〜イサベラ西方(Fernandina and western Isabela)海洋生物区
3.その東側:
中央〜南方〜東方島嶼(Central-southern-eastern islands)海洋生物区
さらに、3. 中央〜南方〜東方島嶼海洋生物区は以下の2つに区分される。
3.A 北方のピンタ島、マルチェナ島、ヘノベサ島周辺:
北方(northern)海洋生物亜区
3.B 南側:
中央〜東南方(Central-southeastern)海洋生物亜区
1. 最北海洋生物区は、インド~太平洋系要素とパナマ系要素から構成され、ガラパゴス固有種はほとんど生息していない。2. フェルナンディナ〜イサベラ西方海洋生物区には多くの固有種が生育しており、それらの類縁種が南アメリカ沿岸域に存在している。3. 中央~南方~東方島嶼海洋生物区には上述の要素が混在していることが特徴となっている。
図:地球環境「ガラパゴス諸島、世界自然遺産第1号登録地の栄光と挑戦」をもとに作成。