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3-16. ウチワサボテン ゾウガメやイグアナと共進化(伊藤秀三)

3-16. ウチワサボテン ゾウガメやイグアナと共進化(伊藤秀三)

 南アメリカ大陸からガラパゴスへ到着したとき、まず目につくのはアカマツの樹肌に似た赤い幹をもつウチワサボテンだろう。もっとも大きくなる種では、幹の直径30㎝、高さ8 mに達する。ウチワサボテンはガラパゴスの乾燥低地を代表する植物である。

サボテンのトゲは葉

 サボテン科の植物では、葉は退化してトゲとなり、茎は水分を多く含み葉緑素を持ち光合成を行う。葉の退化が水分の蒸散をほとんどなくすので、サボテン類は乾燥環境に適応した植物となっている。ウチワサボテンはその代表のひとつである。

ウチワサボテンの種類と形状

 ガラパゴスのウチワサボテンには6種8変種があり、全種が固有種でほぼ全島に分布する。太いアカマツのような樹幹の上に枝を広げ、その形状は種類ごとに異なる。写真のように、太い幹をもつ種類、幹の上の枝が垂れ下がる種類、枝が立つ種類、背丈が特に高い種類など。これらがほぼ全島の乾燥低地に分布している。

ウチワサボテンの巨木種-1

ピンタ島産のウチワサボテン、ガラパゲイア種。太い幹が特徴(伊藤秀三撮影)。

ウチワサボテンの巨木種-1

ウチワサボテンの巨木種-2

上/プラサ島産のウチワサボテン、エキオス種。枝が垂れるのが特徴。中/サンタ・フェ島産のウチワサボテン、エキオス種の変種バリングトネンシス。枝が立つのが特徴。下/サンタ・クルス島産のウチワサボテン、エキオス種の変種ギガンテア。もっとも大きくなる種類(伊藤秀三撮影)。

ウチワサボテンの巨木種-2

 

サボテンとゾウガメの共進化

 ウチワサボテンがアカマツのように堅い樹幹の上に枝を広げ花を咲かせる形に進化したのは、サボテンを食べるゾウガメやリクイグアナとの共進化の結果だといわれている。

 ゾウガメとリクイグアナはウチワサボテンの茎や花や果実を食べる。ウチワサボテンとしては、芽生えたばかりの幼植物の茎を動物に食べられたのでは、花を咲かせ実を結ぶまで生長できず、種族の維持もおぼつかなくなる。そこで芽生えたばかりの幼植物は、長くて丈夫なトゲを密に生やして動物から身を守り、何年もかかって高く大きく生長するとともに、幹を堅い樹皮で覆って動物に食われないようにし、その上に枝を広げて花をつけるようになった。その高さまではゾウガメやリクイグアナの口は届かない。このようにして、ガラパゴスのウチワサボテンは樹木のように進化したのである。

 動物たちは高い枝から落ちてきたサボテンの果実を餌として食べる。サボテンとしては、動物たちに糞と一緒に種子をまき散らしてもらう。一度ゾウガメの消化管を通って出てきた種子は、発芽率が高くなることも知られている。こうしてゾウガメとしては餌をサボテンからもらい、ウチワサボテンはゾウガメに種子の散布と繁殖を助けてもらう。お互いが利益を分かち合う共進化の一例とされている。

幹がないウチワサボテン

 それでは、ゾウガメやリクイグアナがいない島では、ウチワサボテンは丈高く進化する必要はないではないか。事実、これらの動物が棲んでいない島(ヘノベサ島、マルチェナ島、セイモア島)のウチワサボテンは、アカマツのような堅い幹を発達させず、サボテンの茎は緑色をしたまま地面を這い、地面近くで花を咲かせ実を結ぶ(現在セイモア島に棲むリクイグアナは、1930年代後半にバルトラ島から移植されたものの子孫である。3-5参照)。

ゾウガメがいない島のウチワサボテン

セイモア島産のウチワサボテン、エキオス種の変種ザッカーナ。他の種類のような太い幹がなく、茎が地面を這うのが特徴(伊藤秀三撮影)。

ゾウガメがいない島のウチワサボテン

ハシラサボテンとヨウガンサボテン

 ウチワサボテン属(Opuntia)の6種8変種はすべてガラパゴスの固有種であるが、その他にもサボテン科の固有属として、ハシラサボテン属Jasminocereus、1種2変種)とヨウガンサボテン属Brachycereus、1種)がある。すなわちサボテン科の3属8種10変種は、すべてガラパゴスに固有な植物である。

 ハシラサボテンはウチワサボテンに混じって乾燥低地に生育する。ヨウガンサボテンは、名前のとおり、まだ何も生えていない未風化の溶岩の上に生える。

その他のガラパゴス固有のサボテン科の2属

上/固有属ハシラサボテン(伊藤秀三撮影)。下/固有属ヨウガンサボテン(バルトロメ島サミットトレイルにて、波形克則撮影)。

その他のガラパゴス固有のサボテン科の2属